式の展開

\(\)

文字式も,数値式と同様に分配法則が成り立ちます。

(a + b)c や (a + b)(c + d) のように,足し算や引き算でできた項が,掛け算で結合しているとき,これらは次のように分配法則を使って展開できます。

分配法則

(a + b)c = ac + bc

(a + b)(c + d) = ac + ad + bc + bd

上記のように,掛け算の形の式を変形して(分配法則を使って),加減算で項を結合することを 「式を展開する」 といいます。簡単に言い換えると,式のかっこを外す操作が,式の展開となります。

[おまけ] (a + b) ÷ c, (a + b) ÷ (c + d) のように,割り算の場合も 割られる数が複数項でできている場合は分配できます。

\((a + b) ÷ c = \frac{a}{c} + \frac{b}{c}\)

\((a + b) ÷ (c + d) = \frac{a}{c + d} + \frac{b}{c + d}\)

乗法公式

分配法則の中で特徴的な式の形になっているものは,乗法公式(多項式の展開公式)と呼ばれています。乗法公式は,分配法則にしたがって式を展開したものですが,これらは,後で学習する「因数分解」に深く関係しています。これらの公式が頭の中に定着していれば,因数分解の問題も簡単に解けるようになりますので,しっかりと覚えましょう。

ここでは,5つの 乗法公式 を示します。気負って覚えなくても,練習問題などを繰り返していれば自然に覚えてしまうかと思います。また,いろいろな問題を解くうちに,人によっては,別の特徴を持った式を乗法公式として覚えてしまうかもしれません。ここで示した,1 と 2,および 3 と 4 は 本質的には同じで,実質,3パターンになります。(極論をいうと,この公式覚えなくても,時間さえあれば,分配法則を使えば導き出せますが,試験中にそんなことをしたら,問題解くのに時間がかかりすぎます。「試験」のための勉強という観点では,全部を系統的に覚えて,使いこなせるようになっておくべきです。)

乗法公式
  1. \((x + a)(x + b) = x^2 + (a + b)x + ab\)
  2. \((ax + b)(cx + d) = acx^2 + (ad + bc)x + bd\)
  3. \((a + b)^2 = a^2 + 2ab + b^2\)
  4. \((a\: – \:b)^2 = a^2\: – \:2ab + b^2\)
  5. \((a + b)(a\: – \:b) = a^2\: – \:b^2\)

 

実際の数学の問題は,乗法公式の文字部分に具体的な数値が設定されたり,文字の部分が文字式になっていたり,公式を複雑にした式が出題されることがあります。

【例題】次の式を展開しなさい。

(1) (x + 2)(x + 3)

(2) (x + p + q)(x – p – q)

 

(1) は,公式:1の a, b を,それぞれ 2, 3 に置き換えて,

\((x + 2)(x + 3) = x^2 + (2 + 3)x + 2×3 = x^2 + 5x + 6 \)

が導き出せます。この程度の複雑さなら,慣れてきたら途中の式は省略してよいです。

(2) は,複数の公式を組み合わせて解く例です。この問題で重要な操作は置き換えです。式の一部分が同じ式で表されるとき,その式を一文字で置き換えると,元の式が簡単に表現され,わかり易くなる場合が多いです。置き換えを行った後,ある程度,式を展開したら置き換えた部分を元に戻す操作を行います。いろんな問題を解いて,この操作もマスターして下さい。

では,この問題を解いてみます。元の式の右側の負の項をまとめると,両方のかっこ内の一部分に,(p + q) という同じ式が現れます。すなわち,

\((x + p + q)(x\: – \:p\: – \:q) = (x + (p + q))(x\: – \:(p + q))\)

ここで,r = p + q とおくと,元の式は次のように表されます。

\((x + p + q)(x\: – \:p\: – \:q) = (x + r)(x\: – \:r)\)

右辺は,公式:5 の a を x, b を r に置き換えたものと同じですから,

\((x + r)(x\: – \:r) = x^2\: – \:r^2\)

となります。これで,元の式は展開されていますが,この状態では問題に含まれていない r という文字を含んでいます。これは解法手順の途中で,p + q を r に置き換えて展開式を求めたからであり,ここで,この置き換えを元に戻します。 \(r^2 = (p+q)^2\) は,公式:3から

\(r^2 = (p + q)^2 = p^2 + 2pq + q^2\)

となるので,元の式は,次のように展開されます。

 \((x + p + q)(x\: – \:p\: – \:q) = x^2\: – \:(p^2 + 2pq + q^2)\)

右側の括弧を外して,整理すると,

 \((x + p + q)(x\: – \:p\: – \:q) = x^2\: – \:p^2\: – \:q^2\: – \:2pq  \: … (答)\)

もちろん,式の展開問題は分配法則だけ知っていれば解けないことは無いですが,項がたくさん出てくると,計算間違いを起こしやすくなります。ぜひとも,公式を覚えて,使いこなせるように練習しましょう。